東京商工会議所はこのたび、「中小企業の円滑な事業承継の実現に向けた意見」を発表しました。
これは、日本の中小企業が直面する深刻な事業承継問題に対する課題提起であり、制度改善への具体的な提言が盛り込まれています。
経営者の高齢化と後継者不在により、黒字でも廃業が増加
近年、中小企業経営者の高齢化が加速する中、後継者不在のために廃業を余儀なくされるケースが増えています。
注目すべきは、休廃業を選択した企業の半数以上が直近の決算で黒字だったという事実です。
つまり、本来であれば事業継続が可能な「価値ある企業」が、制度や環境の不備によって失われている現状があります。
このような状況を受け、東京商工会議所は、事業承継対策の抜本的な強化と、制度の柔軟な運用を求める声を強く発信しています。
親族内承継の現場から聞こえる“制度の使いづらさ”
事業承継税制の活用にあたって、現場の企業からは次のような声が上がっています。
「自社が事業承継税制を使うべきか判断できない」(卸売業)
「『贈与の直前において3年以上役員であること』という要件を満たすのが難しい」(卸売業)
「叔父の家族から株式の譲渡の話があったが、先代代表者の条件に合わず、株式を買い取るしかなかった」(製造業)
「事業承継税制を使ったが、海外子会社の株式が対象外となり、相続税が高額に。資金調達に苦労した」(製造業)
これらの実態を踏まえ、商工会議所では、より実務に即した制度設計と、専門家・金融機関を巻き込んだ支援体制の強化を提言しています。
東京商工会議所が掲げた6つの要望事項
東京商工会議所は、以下の6点を中心に、制度改善を求めています。
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事業承継税制の制度改善
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後継者に対する「役員就任3年以上」要件の撤廃・見直し
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「先代代表者であること」という条件の緩和
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2代目後継者から3代目に贈与する際、制度を使わなくても税の免除を認める仕組みの構築
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5年経過後の定期報告義務の廃止(法人税申告等による確認で代替)
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中堅企業も制度対象とすること
恒久的な制度整備に向けた提言も
さらに、事業承継税制の恒久化を見据えた以下のような制度拡充も提言しています。
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対象株式の制限撤廃
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雇用維持要件の柔軟化
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納税猶予割合を100%に引き上げること
これらは、2026年4月から予定されている「事業承継税制の一般措置」に向けた重要な論点となります。
中小企業の存続は、地域と日本経済の未来を支える
中小企業は、日本経済の基盤であり、地域雇用の重要な担い手です。今後の制度改正によって、持続可能な承継環境が整備されれば、将来にわたって価値ある事業が次の世代へと引き継がれていくことでしょう。